なめとこ山のクマ

漫画誌『民民』創刊号に参加します。下記のイベントで頒布予定です。詳しくは主宰の永美太郎さんによる情報発信をご確認ください。西村ツチカは宮沢賢治『なめとこ山の熊』をもとにした短編漫画を寄稿しています。
12月14日(日)ZINEフェス大阪
1月10日(土)ZINEフェス東京

2025年5月、二階堂正宏さん『恩讐の彼方に』という漫画を読みました。菊池寛や太宰治の原作を換骨奪胎した長尺物のギャグ漫画が3本おさめられた短編集で、近年まれに見る俗悪な内容に、衝撃を受けました。大変思い切りの良いページの使い方と、劇画を模した本気か冗談かわかりづらい絵を眺めていると、頭がフワフワしてウワーッと不思議な気持ちが湧き上がりました。その正体は自分でもわからないですが、むりやり言葉にすると、この漫画が存在できる文化の懐の深さと、それを証明してみせてくれたことに感動したかもしれません。自分は漫画をまったく描かなくなり、イラストのお仕事ばかりするようになって何年も経ちますが、この漫画を読んで、また漫画を描きたいと思いました。そんなとき、永美太郎さんからのお誘いで『民民』に参加する機会にめぐまれました。宮沢賢治の原作を換骨奪胎した短編漫画を描きながら、自分の頭にあったのは『恩讐の彼方に』の乱雑な乾いたペン画でした。充実した時間で、とても楽しかったです。今はまだイラストのお仕事をいくらか残していますが、それらを精算しながら、また漫画を描いていきたいです。

2025-11-20

集めた資料や綿密にお膳立てしてきた下絵が、制御しづらい葦ペンでザクザク線を引くたび一つ一つ役目を終えていく。盛られすぎた墨汁がドライヤーでは乾ききらなくてスキャナーのガラスの上で拭かれて終わる。描き上がった原稿のしょぼさがとても信じられなくて、ランダムな墨汁だまりや偶然向きが揃った線などの無意味な事故にあたかも目に見えない何かが宿っているかのように自分をそそのかす。ペン入れ楽しいです。

2025-10-23

連日国内で多くの熊害が報道されています。被害にあわれた方々に心からお見舞い申し上げます。

近い将来、クマをかわいらしく肯定的に表現することが反社会的とみなされる風潮になるかもしれないと想像しました。そしてまた、もう少し先の未来、人間がクマを野生絶滅させるなどして熊害問題を克服したとしたらそのときは逆にクマに同情的な風潮になるかもしれないと想像しました。

クマが恐ろしい害獣であると同時にかわいいキャラクターでもあるという二重性に自分はやや固執していたいため、どんな世の中になったとしても自分が描くものは誰かにとって不謹慎にあたりうると思います。せめて誰かにとっておもしろいクマであったらいいなと思います。

2025-10-14

いつもインスタグラムでクマ動画ばかり見て無限に時間を溶かしてきました。最近、AIが生成したAIクマ動画も流れてくるようになりました。このクマ動画は本物?AI?と考えながら見ているうちに自分は「自分っていつも『自分は”本物”を見ている』って信じながらインスタグラムをしていたんだな〜」と初めて自覚しました。そこでインスタグラムでクマ動画を見ることをやめました。スッとやめられたのは、たぶん沢山見すぎて、癒やされを通り越して体にだるみが降り積もる無意味限界意味時間に突入していたせいもあると思います。気づかせてくれたAIにこの場を借りてお礼を言わせてください。

ありがとう。

自分が描くクマも、AIが無限に生成してくれたら絶対その方がはるかに早くて品質も安定していて、自分の手で描く必要はないと思います。今はまだ「手で描く楽しさ」が動機の大半で、たとえAIが代替してくれても自分はクマを描くと思われるし、べつにコンスタントに高品質なクマを供給しつづける必要にも迫られていないので、自分の手で描いています。

誰もが自らを売り込みたくて信用を得たくて大量の空手形を互いに濫発しあい、いざ誰かが破綻して滞ったとき、裏書きをたどるとそこには振出人がいて、支払いの義務が生じ、善意の人ばかりが本物の労働で埋め合わせをしいられる世の中が詐欺だとして、それを告発する手続きが問題なく機能する程度にはこの世の中を保って破滅しすぎないように、しょぼくても本物のクマを描く人間であれたらと思いました。