2024-03-31

漫画家たちのお花見に寄せてもらいました。花見といえば午後には底冷えしてはよ帰りたいのが常なのに、今年は遅咲きなためか終日暖かく夕暮れまで宴がつづきました。真造圭伍くんと描いたラクガキ↓

2024-03-20

家族と散歩がてら近所のパン屋に出かけると、軒先の一角を花屋の無人販売所が借りていて、家族がチューリップを気に入って買いました。

2024-02-13

「映画監督松本壮史のいま観たい青春映画10選」という、メンズノンノではじまった松本壮史監督の連載コラムで挿絵を担当しています。

第1回『リンダリンダリンダ』

Suffer

最近、自分がマンガを描きはじめた頃の、初心を見つめ直しています。自分がエドワード・ゴーリーに影響を受けたことについて書きます。

(マタイによる福音書19:14より)あるとき人々が子供らを連れて大挙し、イエスに対し、子供の頭に手をおいて祈ってやってください、と口々に求めた。イエスの弟子らは彼らを追い払おうとしたが、イエスは弟子らを制止してこう言った「子供たちを来させなさい。私のところに来るのを妨げてはならない。天の国はこのような者たちのものである」

Suffer little children, and forbid them not, to come unto me: for of such is the kingdom of heaven.”

↑このsufferを「苦しめる」と訳すると「子供たちを苦しめなさい」となり、えっどういうこと?と混乱しちゃいますが、sufferにはほかに「許可する」というような意味があって、上の訳文になるのはそういうわけだそうです。

ものの本によるとこの聖書のことばを、マイラ・ヒンドリーが獄中で唱えたそうです。マイラ・ヒンドリーは共犯者イアン・ブレイディと共に1960年代のイギリスでムーアズ殺人事件と呼ばれる最悪の児童連続殺人を行った犯罪者です。凶行の現場となったマンチェスターで被害児童らと同じく幼少期を過ごしたモリッシーはのちにこの事件を題材にとって書いた曲をThe Smithsで発表しタイトルを “Suffer little children“としました。モリッシーはこの本の読者だったということです。

聖句については、実際はマイラ・ヒンドリーがただ敬虔な気持ちで唱えたものを頭が切れる記者が皮肉に切り取って書き立てたのかもしれません。あえてそうすることには、倫理の危機に対する警告や、読者を啓蒙する効用も見込まれていたかもしれません。それを引用したモリッシーにも当事者としての切実さがあったと想像します。(ところで、先述のThe Smithsの曲では、マイラ・ヒンドリーについて歌われる一方で共犯者イアン・ブレイディについては一切言及がないことが不思議で、どういう意図でそう書かれたのかわかりません)

自分は当事者ではなく、ただただ鋭い皮肉に興味を持っている野次馬でした。sufferの異なる2つの意味によって、さらにそれにつづく聖句がますます印象がおそろしく異なり、それでもなお、どちらの意味でもそれぞれ文章として矛盾なく読めてしまう、のみならず、そんなレトリックの遊戯性が吹っ飛ぶほど衝撃的な現実と紐づいている、これらによって、『その聖句をマイラ・ヒンドリーが唱えたらsufferが「子供たちを許可しなさい」じゃなくて「子供たちを苦しめなさい」になっちゃうでしょうが』と洗練された感慨を持つことを可能にしてくれる格好の皮肉が完成していることこそ、自分にとっては重要でした。

ムーアズ殺人事件は大変衝撃的だったため、触発された作品も多いらしく、エドワード・ゴーリーの絵本『おぞましい二人』(1977年)はその一つです。著者ゴーリー自身がかつておびただしい子供の死を作品内で描いてきたため、二人の犯人に自らをなぞらえ自嘲しているとも言われる内容ですが、画面を埋め尽くすペンのストロークが非常に印象的で、自分はその画風に大変つよく影響を受けました。その画風そのものが一つの魂を表しているように自分は感じました。

sufferの異なる2つの意味の際立った差異から生まれた強烈な皮肉の感覚が、影絵のように自分の脳裏に焼き付いており、自分を駆り立てました。今思うとそれは単に自分の中で燃え上がるゲス心が投射した幻影にすぎないのですが、どす黒く、激しく、執拗で、空疎なその魂は、たしかに、画面を埋め尽くすペンのストロークによく似ていたように思います。

(最近、自分がマンガを描きはじめた頃の初心を見つめ直しています)

2023-12-07

いまから10年前、2013年に「クマよけの鈴」と題し、鈴を鳴らしながら森の中を進む人間たちと、それに怯えるクマの様子を絵に描き、展示しました。初めての個展でした。

もともと童謡「森のくまさん」が好きでした。クマこそが森の中では一番危険な存在なのに、それが人間に「お逃げなさい」と告げるのが不条理で面白すぎました。

可愛いマスコット、凶暴な怪物、環境破壊の被害者、自然の脅威、などいくつもの顔が与えられてて、とらえきれないし、それをクマ本人はどう思うのかもわかりません。

2023年は、アーバンベア問題やOSO18駆除などクマの話題が多い一年でした。夏にはパリの狩猟自然博物館でクマ猟に関する展示を見たこともあって、一年中ずっとうっすら興奮していた気がします。