2022-01-07

『鶏の墳丘』という映画を観ました。日本文化で育った自分にも親しみやすい映像と音で、たのしかったです。語り口が複雑で、物語がたやすく見通せないのは、検閲対策でしょうか。一つ一つを味わうより先に目まぐるしく切り替わる映像を、いつかゆっくり観直せたらと思いました。

楽音と非楽音に区別はない

数週間前、拙宅の庭のすぐ裏手に新しく家を建てる予定のご夫婦が、わざわざ訪ねていらして「きっと工事がうるさくなると思いますので…」とご丁寧にフェイスタオルをくださったとき、なんとよく気がつくご夫婦だろう、そんなにお気になさらなくてもよいのに、もし万が一うるさかった時はいただいたこのタオルを耳の穴に詰め込みますよ、ははと軽く受け止めていたのですが、いざ工事がはじまると予想の10倍うるさく、いつも朝起きるのが遅い自分は騒音に叩き起こされ、このままではあわや健康な朝型生活になってしまいかねません。

(バリリリ、ガンガン、ギュイー、ゴロンゴロン、ドガガーン、オーイ)

思い返せば、いま建設工事がおこなわれているその場所には、かつては、老朽化した邸宅が建っていました。当時の住人の方とは自分は交流がなく、いつの間にそこを立ち去られたのかわかりません。とにかく、あるときパワーショベルがやってきて、取り壊しの工事がはじまり、そのときもまた、すさまじい騒音でした。なにしろ距離が近いのです。そして工事が完了し、裏手が完全な更地となってからの数ヶ月間、我々に思いがけない出来事が起こりました・・・なんと、おどろいたことに、はじめて太陽を満喫することができたのです。

じつは拙宅は周囲を高い建物に囲まれた立地にありました。あまり光が届かない小さな庭つきの、遮光カーテンいらずのじめじめした薄闇の空間を、家族ももともとはあまり気に入りませんでした。引きこもって音楽を聴いていることが多い自分は、闇の中でも平気なつもりでしたが、しかし、庭に影を落としていた建物が撤去されたことによって、はじめてあたたかい陽光が満ちあふれ、闇のすみずみへ反射されました。本当に思いがけないことでした。洗濯物がとにかく乾くし、でたらめに朝日のふりそそぐベッドでごろごろし、家族の機嫌もよく、ハーブの栽培などもはじめ、光と香りに満たされ、インドア派の自分でさえ、さすがに感動しました。まさか我々がこんなにも太陽にありつける日がくるなんて、拙宅がこんなに素敵に生まれ変わりえたなんて・・・

でも、あの素敵なご夫婦のことだから、いま建設中のあれは、きっとまた大きな邸宅にちがいありません。とても立派な構造物が完成するでしょう。太陽は照らす相手を選びませんが、人間がそうさせてくれません。短い春は終わりました。厳然と存在する光の優先権を回していただけず、うちの庭はまたもとの青い闇にすっぽり飲み込まれ、今度こそ永遠に閉ざされ、家族の顔にもつめたい影がさしてしまうのでしょう。この白いフェイスタオルは、ほら、白旗がわりにこれでも振っておきなさい、というメッセージでもありましたでしょうか。ならばおかえしに、両腕いっぱいのローズマリーを贈ってさしあげたい。うちの庭で数カ月もの間太陽を吸って、すくすく育った元気なローズマリーの束を、どのみち闇の底で枯れ果てる運命ならば、せめてもの慈悲に、根こそぎ刈り取り、今のうちに、今まさに、とうてい無視できない工事の騒音が、闇なる日々の再来を告げるので。

(バリリリ、ガンガン、ギュイー、ゴロンゴロン、ドガガーン、オーイ)

ジョン・ケージに「楽音と非楽音に区別はない」という言葉があるそうです。しかし自分の耳には、工事の音(バリリリ、ガンガン、ギュイー、ゴロンゴロン、ドガガーン、オーイ)はただただ耳障りで、とうてい音楽に聴こえたことはありません。もしここでなにか音楽を流そうとしても、工事の騒音によって無残に引き裂かれ、飛び散ったメロディの残骸が新しい騒音の一個となるばかりでしょうし、もしかすると、ノイズ音楽をかける以上に耳障りかもしれません。

でも、ちょっとは音楽っぽい規則性がありつつ、偶発性も許しそうな、ちょうどいい按配の音楽が迎えに来てくれたらどうでしょうか? つまり、 ポップソングとノイズの間のどこかに、どうかすると、この工事の騒音がちょうど音楽に聴こえるような、ちょうどいいBGMはないものか? もしも万が一、この騒音を音楽に変えることができたなら、「楽音と非楽音に区別はない」をリアルに実装できたら、それはとても素敵なことじゃないでしょうか? そう思いました。自分はジョン・ケージのことを全然知りませんが、短い春が終わったいま、ほかに信じられるものも無いし、ふと全然知らないジョン・ケージを信じてみたい気持ちになりました。そこで、色んな音楽をかけて試してみました。あれでもない、これでもない・・・

果たしてそれはありました。正解はgoatでした。今まさに工事が行われているなかでgoatのアルバムをかけると、その音楽にみちびかれ、工事の音がはじめて音楽に聴こえだしました。

goat – ON FIRE

(バリリリ、ガンガン、ギュイー、ゴロンゴロン、ドガガーン、オーイ)

「うるせ〜・・・ あの夫婦〜・・・ この人生〜・・・」

(バリリリ、ガンガン、ギュイー、ゴロンゴロン、ドガガーン、オーイ)+(goatの音楽)

「アガる〜!!! あの夫婦〜!!! この人生〜!!!」

世界に工事がある以上、工事の騒音はつきもので、世界に色んな音楽が必要なのは、色んな現実があるからかなと思いました。今、目の前で工事の音を聴きながら、自分は踊っています。皆さんもぜひやってみてください。

2021-12-30

バスクのスポーツというバンドが大好きで、彼らがよくライブをする場所ということで下北沢GARAGEに親しみを感じていました。残念ながらコロナの影響のため年内で閉店するそうで12月28日がここでバスクのスポーツを観れる最後の機会になりました。

時局柄マスク着用ではあるものの観客としての楽しみ方はコロナ前の本来こうだった感じにだいぶ戻ってきたようでした。演奏にみちびかれて皆の歓喜が高まる時が何度もありました。照明が音楽とかたく一体化してて最高でした。ライブハウスに来るのが久しぶりだったせいか音量がめちゃでかく感じました。この場所がなくなってもまたどこか別の場所でここに来られたら嬉しいと思いました。最高なライブでした。

2022年に新しいアルバムを出すつもりがあるということをMCで仰ってました。2016年の1st『運動と食卓』をめちゃくちゃ好きで今もめちゃくちゃ聴いてます。前作から6年という期間もまた血がかよっているように感じました。嬉しくなりました。

自分も2022年は自分の本を出せるよう頑張ります。

2021-12-15

 
 
 
 
 
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劉慈欣『火守』が12/20に発売されます。短編小説と絵本の中間のような、カラーの挿絵がある、薄めの本です(本の分類でいうと何と呼ぶのでしょうか?)。完成してとても嬉しいです!絵を描かせてもらえてとても嬉しかったです。池澤春菜さんの翻訳も素敵です。須田杏奈さんのデザインも素敵です。ぜひ見てください!