2019-11-13

「天井どつく」

また上階の住人の目覚ましで起きた。このところ毎朝こうだ。以前もあった。到底眠れない。信じがたいことにどうやら爆睡してるらしく止める様子がない。この断続的な低いバイブ音は下階にのみ響くのか。でも実際の様子はわからないし、もしかして旅行中か何かでもぬけの殻なのかもしれない。どちらにせよ毎回30分ほど鳴り続けおそらく自動的に止まる。下階の住人を叩き起こしている自覚はなさそう。一度直接訴えに行ったら(誰もいない可能性を疑っていたけど、ピンポンを何度も鳴らすと普通に出てきて少し驚いた。相手は目覚ましが下階に響くとは心外だったらしく、逆に苛立ちを見せてきてまた驚いた)その後しばらくは鳴らさないでいてくれたけど、むしろ加害意図がないだけに、一度や二度指摘されたくらいでは注意力が持続しないようで、数週間経つとまた忘れてしまう。自分だって忘れたい、このバイブ音をできることなら・・・心から願うのに、6時40分になると天井から部屋中に響き渡って一向に止められる気配がなく、寝付くこともできず途方に暮れて睨み上げる。上階の住人たちは薄氷の上で爆睡している。

天井をどつこう、いやそれをやってしまうともはや狂人かもしれない、でもまた上階に直接訴えに行くのも面倒くさいし怖いし、管理会社に訴えても上階の住人に連絡がまわるのが数十分後ならもう目覚ましが止まっているので信じないだろうし、今まさに鳴っている間にすぐに伝えなくては、いや天井をどつくのも誤解を生じそうでもちろん怖い、だが、そうやってビビって衝突を避け今まで何もせずにきた自分の独善的な態度がこの結果を招いた、一度訴えてまだなお理解してくれないのだから被害のたびに理解を促すしかない、そのためには適宜天井をどつくほかない、相手だってわからないまま終わるより蒙を啓かれたいと望むはず、相手のためにもどつくべきであろう、相手のためにもどつくべきとは少し狂人めいているかもしれないが、よしこうなったらどつこう、天井をどついてこます、どうせどつくなら明確に強くどつくべきだろう、いや無用な迷惑はしたくない、少しでいい、なんかこう小さく天井をどついて意図を伝えられる上手などつき方はないのか、イメージとしては言葉のように伝わるどつき方、モールス信号のような、そんな上手などつき方、ヤフー知恵袋には書いてないだろうか・・・
どつこうかどつこまいか迷っているうちに、以前本で読んだオオウミガラスの話を思い出した。

北極に生息するオオウミガラスが絶滅寸前だと判明した時、世界中の博物館はそれを保護するのではなく、逆に莫大な賞金を懸けて標本を求めた。ハンターたちは北極へ殺到、彼らにとってオオウミガラスは賞金首であって別に絶滅させたいとかいう意志はなかったが、まぁ狩り続ければ絶滅するだろうとは認識していて、種が続いても絶えても別にどっちでもいいしな~という感じで狩りつくしたそうな。そして数年後、北極に近い島々の凍土の下にオオウミガラスの無傷な死体が冷凍保存状態で大量に埋まっており、標本なんかいくらでもとれることが判明。ようするに意味なく絶滅させてしまったという、やるせない話。

絶滅させられた後、オオウミガラスたちはずっと凍土の下にいた。そして今もいる。その北極の氷は、またしても人間による環境破壊のために急速に融け出す。オオウミガラスのおびただしい死体が、一匹また一匹と北極海へ流れ出てゆく。やがて、記録から抹消された某国の原子力潜水艦が沈む海底の一点へと集結する。地上からは全く様子のわからない深い氷に閉ざされた闇の底で、原子力を携えた彼らが天井を睨み上げる。

誰もが薄氷の上で爆睡している、いつか階下からどつかれるまで。

2019-11-11

『生活の途中で』→

ミワさん、こだまさん、斉藤倫さん、三浦直之さん、ヒコさん、GAME BOYZさん、久保泉さん、Nookさんによる合同誌。作家さんごとに世代が少し異なり、過ごされてる生活も文章のスタイルも色々で、読んでいてとても楽しかったです。

2019-11-01

<イベント告知>
『西村ツチカ画集』まんだらけ各店での購入特典で、サイン会の参加券がつきます。あと缶バッジがつきます。

サイン会は今月29日にあります。参加方法など詳細はホームページを見てください。web通販でも買えるようです→
中野ブロードウェイ4階マンダレイ
11月29日18時〜21時

2019-10-31

『西村ツチカ画集』が全国発売になりました。ぜひ見てください→

精細な銀箔押しや特殊な黒色インクを使ったり白色は2重に刷るなどの工夫が施された表紙の上に四色の変形帯を巻くという凝ったアイデアや、本文の紙がころころ変わる仕様はもちろんデザイナーの大島依提亜さんが考案してくださいました。絵自体も全てチョイスしてくださったので共著者さん的存在でもあります。このような多幸感のあふれる本にしてくださり本当に嬉しいです!ありがとうございます。

大島依提亜さんは先日打ち合わせの席でエイドリアン・トミネTシャツを着ていらしました。

2019-10-31

<イベント告知>
「海外マンガ」をマンガ家5人でワイワイ語る夜(入門編)→
サヌキナオヤ、かつしかけいた、真造圭伍、西尾雄太、西村ツチカ、森敬太(敬称略)
SPBS本店
2019年11月6日(水)20:00~21:30

2019-10-31

最近読んだ海外マンガ。이윤희(イ・ユニ)さんの『열세 살의 여름(十三歳の夏)』の絵が大好きです。『少女ソフィアの夏』や『This One Summer』とも似た、少女期の夏休みのお話で、韓国語を読めない自分でも、ページをめくっていると何となく話がわかるような、素朴なストーリーのようでした。大事な場面でセリフがわからないのは残念ですが・・・この作家さんは前作『안경을 쓴 가을(メガネをかけたGaeul)』が最高に好きで、そちらもやはり素朴なストーリーながら、より幻想的な内容と絵のかわいさに心をつかまれて、ファンになりました。翻訳されてほしいです。Amazon以外の通販サイトにあったので買おうとトライしました。YES24や教保文庫などは、外国人でも登録はできるものの、購入時になぜか韓国国内に在住する証明のIPIN認証を求められる謎の仕様のため買えませんでしたが、Aladinでなら買えました。海外通販なので一週間くらいかかるかなと思っていたら1日半で爆速到着したので驚きました。

「CIUT ZINE issue1」はポーランド発の15人の作家による学校生活をテーマにした自主出版マンガ雑誌です。以前からInstagramでフォローしていたxuhさんがクラウドファンディングを立ち上げられたので協力しました。15人の作家はどういう集まりなのか知りませんが作風は本当にバラバラです。中には自分がInstagramでフォローしていた人が何人かいました。セリフは英語なので気合を入れたら読めます。それぞれ画面が多様すぎます。エモくても雑誌の雰囲気のおかげか軽く読めて良かったです。表紙の女の子の絵は裏表紙につながっていてニセゴキブリ少女なようです。雑誌全体が隙あらばほんのりふざけてくる感じがとても楽しいです。こういう色んな作風のたわいのない短編がいくつも見れる本が好きだ〜と思い、自分が短編集でやりたいのはまさにこういうことかもと思いました。あとクラウドファンディングのリターンのグッズがかわいい。ここに写っていないボールペンも良いです。

2019-10-18

<イベント告知>
『西村ツチカ画集』刊行記念フェアとサイン会が、代官山蔦屋書店にて開催されます。

書籍の先行販売が10月26日からはじまり、11月25日までの一カ月間、トートバッグやTシャツや手ぬぐいやはんこなど数種類のグッズを出す予定で、いま制作中です。

サイン会は10月27日にあります。参加方法など詳細はホームページを見てください。電話で書籍を予約することが可能で、サイン会に参加希望の方はその旨お伝え下さいということです→
代官山 蔦屋書店 2号館1階 建築デザインコンシェルジュデスク10月27日(日)13時~15時


2019-10-11

<イベント告知 >
『西村ツチカ画集』刊行記念で、大島依提亜さんとのトークイベントがあります。
参加予約はこちら→
書籍の先行販売もします。30日からは、イラスト原画の展示も行います。
青山ブックセンター本店
2019年10月26日 (土) 13:00〜14:30

ほかにも、イベントなどについては随時告知していきます。

2019-09-27

以前、知り合いの先輩作家さんから「文化庁メディア芸術祭の受賞を辞退した」と聞いてびっくりしたことがあります。メ芸は応募制なので基本的に辞退ということはないはずですが、その方の場合は、雑誌編集部が無断で応募していて(漫画ではよくあること)本当に優れた作品だったために最高賞が内定してしまい、後で知らされたということです。自分もメ芸に自作を応募したことがあります。自分の場合はその方とは違い、積極的にメ芸を選び、編集部に確認もせず自ら応募しました。メ芸は最高の名誉だと思っていた自分にとっては、その方が一体なぜあえて辞退したか、折角もらえるものをなぜ拒否したか、意味がわかりませんでした。色々伺って一応納得したものの、心情としてはやはりわからないままでした。

でも今日初めてわかった気がしました。自分は受賞したとき死ぬほど喜んだし、その後の活動は全てその延長線上にあると思うので、今後も感謝しつづけます。そのうえで、今後は芸術に対して文化庁がとるふるまいをよく見ながら、自分がそういう作家である意味を考えたいと思いました。